『村上春樹著「猫を棄てる 父親について語るとき」を読む』 弁護士 畑谷嘉宏

 著名な作家の村上春樹氏が、私の中学・高校時代の国語教師村上千秋先生のご子息であるということは、高校の同窓会に出席した時に聞いて知っていました。
 その村上春樹氏が父親のことを書いた本を出版するということを新聞広告で読んで、ぜひ読んでみたいと思い、書店で買い求めて読みました。

 私が学んだのは、兵庫県西宮市にある甲陽学院中学校・高等学校で、西宮市にある白鹿というお酒を造っている辰馬酒造が設立した学校でした。戦前は商人を育てる商業学校でしたが、戦後は私学志向の強い阪神間で中高一貫の進学校になっていました。
 私は、中学高校の6年間村上先生に国語を教えて頂き、中学校の3年間はクラス担任でもありました。しかし中学高校時代には、村上先生がどういう人だったのかを知ることができませんでした。

 村上先生は、京都の500件ほどの檀家を持つお寺の住職の6人兄弟の二男として生まれ、僧侶を養成する学校で学んでいる時に軍隊に召集されました。先生は中国の戦地に派兵され、中国人捕虜を処刑したことを心の重荷としていたことを小学生の村上春樹氏に話され、氏は、その贖罪を引き継いでいかなければならないと思われたという。
 村上先生は2回の軍隊生活を終えた後、京都帝国大学文学部に進学され、文学の研究者を目指されていましたが、その後3度目の軍隊に召集されたため、研究者になる道を断念せざるを得ず、戦後は生活のため甲陽学院の国語の教師になられたということでした。

 戦争が、先生の人生を変え、先生の人生に大きな重しとなっていたことを知りました。
 私達にとって、あの戦争(日中戦争、太平洋戦争)に立ち向かうことの大切さを自ら身をもって実践されている村上春樹氏に敬意を表するとともに、ますますのご健筆を期待したいと思います。

【弁護士 畑谷嘉宏】