賃金・残業代の不払い、退職金の問題等、よく頂く質問について、以下のQAで説明いたします。これらの問題は個々のケースに即して具体的に検討することが必要となります。当事務所の弁護士は、数多くの労働事件を解決してきた実績と専門的知見を有しておりますので、安心してご相談ください。

Q&A目次

1. 会社が損害賠償請求権と給料を一方的に相殺することは認められるの?

Q. 私は会社の備品を壊してしまったのですが、今月の給与明細を見ると、給料から修理費の金額が差し引かれていました。このような一方的な相殺は許されるのでしょうか?

A. 賃金は、原則として、その全額を支払わなければならないとされています(労働基準法24条1項)。

この賃金全額払いの原則により、使用者が労働者の債務不履行や不法行為を理由として、損害賠償債権を労働者の賃金債権(給料)と相殺することは認められません。
また、労働者の業務遂行中に生じた損害については、労働者が使用者による指揮命令下に労務を提供するという労働契約の特質や、報償責任の要請を考慮し、労働者に重大な過失が認められない限り、信義則上、労働者の賠償責任は免責されるか、相当の範囲に制限されると考えられます。

2. 過去の賃金未払分を請求する場合、何年前までさかのぼって請求できるの?

Q. 勤務先から支払ってもらっていない給料や残業代を、まとめて請求したいと思います。いつの分までさかのぼって請求することができますか?

A. 労働者の使用者に対する賃金支払請求権には消滅時効があります。消滅時効の期間は、賃金については2年、退職手当については5年と定められています。

そのため、これらの消滅時効の期間よりも前の未払賃金については、使用者に請求することができません(ただし、民法改正により変更される可能性があります。)。
賃金の未払いがある場合には、早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

3. どのような資料をそろえる必要があるの?

Q. 勤務先に未払給料や残業代を請求するためには、どのような資料を準備する必要がありますか?

A. 未払賃金の請求をする場合には、賃金が発生していることや、出退勤時刻、未払賃金額を立証するための証拠をそろえることが重要となります。

具体的には、給与明細書、雇用契約書、就業規則給与規定、タイムカード、IDカード、業務記録(業務日報)、電子メールの送受信時刻の記録、パソコンの立ち上げや終了時刻等がわかる資料などです。

4. 残業代の計算方法が難しくてわかりません。

Q. 残業代はどのように計算すればよいですか?

A. 労働時間を計算し、各割増手当を付加して残業代を計算します。

  1. 労働時間の計算
    1. 残業代を請求できる労働時間

      1. 残業代を計算するためには、まず、残業代を請求することができる労働時間がどれだけあるかを把握する必要があります。
      2. 労働基準法では、労働者の労働時間は、原則として、休憩時間を除いて1日8時間、週40時間を超えてはならないとされています(法定労働時間)(労働基準法32条)。
        この法定労働時間を超えて仕事をした場合、その労働は「時間外労働」(法外残業)となり、その時間外労働について残業代を請求することができます。
      3. なお、労働契約や就業規則などで、休憩時間を除く所定労働時間が、法定労働時間よりも短くなっている場合があります。
        例えば、休憩時間を除く所定労時間が7時間とされている場合です。この場合、所定労働時間を超えて労働したものの、法定労働時間を越えない場合(これを「法内残業」といいます)には、所定労働時間を越えて仕事をした部分について残業代は発生しません(ただし、その部分について通常の賃金は発生します。)。
        もっとも、労働契約、就業規則、労使協定等により、法内残業についても割増賃金を支給すると定めることは可能ですので、個別に確認が必要です。
    2. 労働時間とは?
      労働時間とは、使用者の指揮命令下で、労働力を提供した時間をいいます。
      そして、具体的なケースにもよりますが、以下のような時間も、労働時間に含まれることがあります。

      1. 作業の準備・整理などを行う時間
        仕事を開始するための準備や仕事の後の整理など時間も、それを事業所内で行うことを使用者から義務付けられていたり、それを余儀なくされていたりした場合には、労働時間に含まれると考えられます。具体的には、作業服等の更衣、準備体操場までの移動、始業時間前の資材の受け出し、作業後の作業服の脱離の時間などです。
      2. 手待時間、待機時間
        職種によっては、作業の途中で次の作業までに待機したり仮眠したりする時間があることがあります。このような時間でも、必要があれば直ちに仕事に対応することが義務付けられている場合には、労働時間に該当することとなると考えられています。
  2. 残業代の計算
    通常の残業代は、1時間あたりの所定賃金額に25%以上の割増手当を付加して支払わなければならないこととされています。
    例えば、1時間当たりの所定賃金額が2000円である場合、残業代は、時間外労働1時間あたり2500円となります(2000円×1.25)。
    時間外労働の時間がどれくらいあるかを把握したら、以下の計算式に基づいて、1時間ごとの残業代を計算します。
    通常の労働時間又は労働日の賃金(所定賃金)÷月間所定労働時間×(1+0.25)×時間外労働時間数

5. 時間外割増賃金には、いろいろな種類があってよくわかりません。

Q. 通常の残業代以外の時間外割増賃金には、どのようなものがありますか?休日割増、深夜割増について教えてください。

A. 労働基準法は、通常の残業代以外にも、以下のとおり、時間外割増賃金を定めています。

  1. 休日割増手当について

    1. 使用者は、労働者に対して、原則として週に少なくとも1回の休日を与えなければなりません(労働基準法35条1項)。この1回の休日を、「法定休日」といいます。
    2. 使用者が労働者に対し、法定休日における労働を命じた場合には、使用者は労働者に対し、割増賃金を支払わなければなりません。
      休日労働の場合の賃金の割増率は、1時間あたりの所定賃金額の35%以上とされています。
    3. 休日労働の場合の計算方法は、以下のようになります。
      通常の労働時間又は労働日の賃金(所定賃金)÷月間所定労働時間×(1+0.35)×休日労働時間数
  2. 深夜割増手当について

    1. 原則として、22時から5時までの時間帯における労働については、それが所定労働時間内でも、賃金の深夜割増が適用されます。
    2. 深夜労働の場合の賃金の割増率は、1時間あたりの所定賃金額の25%以上とされています。
      通常の労働時間又は労働日の賃金(所定賃金)÷月間所定労働時間×(1+0.25)×深夜労働時間数
  3. 割増が複数適用される場合

    1. 例えば、残業が22時を越えて行われた場合には、時間外労働割増と、深夜割増の双方が適用されることとなります。
      この場合、上述のとおり、時間外労働の賃金の割増率は25%以上、深夜労働の賃金の割増率は25%以上であるところ、割増率はそれらを合計した50%以上となります。
    2. また、例えば、休日労働が深夜に及んだ場合には、割増率は、休日労働の賃金の割増率35%以上に、深夜労働の賃金の割増率25%以上が加算され、割増率は60%以上になります。

6. 固定残業代が決められていたら、それ以上に残業代を払ってもらうことはできないの?

Q. 私の勤務先では固定残業代が決められていますが、実際の残業時間に比べて支給額が少ないように思います。残業がどんなに長時間でも、固定額を超えて残業代を支払ってもらうことはできないのでしょうか?

A. 実際の残業時間がどれくらいであるかにかかわらず、あらかじめ一定時間分の時間外労働に対する定額の割増賃金(固定残業代)を支給する企業があります。

この場合、あらかじめ定められた時間外労働分を超えて時間外労働をしても、超えた部分の残業代を支給しないというケースが少なくありません。
しかし、労働者は、実際の時間外労働によって算出される割増賃金額が固定残業代の額を超えている場合、その差額を請求することができます。

7. 会社から、基本給の中に時間外手当も含まれていると言われましたが、給与明細を見ても、どの部分が基本給で、どの部分が時間外手当か全くわかりません。

Q. 残業代を請求しようとしたら、会社から、「基本給の中に時間外手当も含まれている」と言われました。残業代を支払ってもらうことはできないのでしょうか?

A. このようなケースでは、時間外、休日、深夜労働に対する割増賃金部分と、通常の労働時間に対する賃金部分が明確に区別できない場合には、使用者は、別途、時間外割増賃金を支払わなければならないと考えられています。

8. 管理職は割増賃金をもらうことができないの?

Q. 私は、先月、部長に昇進しました。給与明細を見ると、残業代がゼロになっていて驚きました。管理職になると、残業代を支払ってもらうことはできないのでしょうか?

A. 労働実態によって具体的に判断する必要があります。

  1. 労働基準法では、労働時間や休憩、休日に関する規定が適用さない者を定めており(労働基準法41条)、その中には、「監督若しくは管理の地位にある者」が含まれています。
    そのため、これに該当する方に対しては、時間外労働や休日労働及びそれらに関する割増賃金の支払い義務はないことになります。ただし、その場合でも、「深夜」労働に関する規定の適用は受けますので、注意が必要です。
  2. もっとも、職場での肩書が「部長」、「店長」等、いわゆる管理職のものであるからといって、必ずしも、「監督若しくは管理の地位にある者」に該当するとは限りません。
    「監督若しくは管理の地位にある者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいうとされており、肩書にとらわれず、その人の実態に即して判断されることとなります。そのため、その人の労働実態が、一般の労働者と変わらないような、いわゆる名ばかり管理職の場合には、「監督若しくは管理の地位にある者」に該当せず、残業代や休日割増賃金を請求することができると考えられます。

9. 休業期間中の賃金は請求できるの?

Q. 会社側の都合で働くことができなくなった場合、その期間中の賃金を請求することはできますか?

A. 会社側の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)によって労働者が働くことができなくなった場合、労働者は、使用者に対して、その期間中の賃金の全額を請求することができます。

ただし、これについて、就業規則や労働協約、労働契約で特段の定めがされている場合には、全額の請求はできないことがあります。
もっとも、そのような特段の定めがある場合でも、「使用者の責に帰すべき事由」(労働基準法26条)により労働者が休業した場合には、使用者は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。

10. 退職金を会社に請求するには?

Q. 退職金を支払ってもらえないので会社に請求したいと思います。どのような点に注意すればよいでしょうか?

A. 退職金を請求するには、以下の点に注意が必要です。

  1. 退職金の発生根拠
    退職金は、法律で定められているわけではありません。
    そのため、退職金が発生するためには、就業規則、労働協約、労働契約などで、退職金を支払うことや退職金の支払基準が定められていることが必要となります。
    もし、就業規則や労働契約等で定められていなくても、労使慣行、個別の合意、従業員代表との合意などによって、支払金額の算定が可能な程度に明確にされていれば、退職金の支払が労働契約の内容になっているということができ、退職金支払請求権が発生すると考えられます。
  2. 消滅時効
    退職金支払請求権の消滅時効は、5年です(労働基準法115条)。
    そのため、5年よりも前に発生した退職金については請求することができなくなりますので、注意が必要です。
  3. その他
    退職金に関しては、以上の他にも、労働者が会社に対して負っている債務と退職金の一方的な相殺が認められるか、懲戒解雇の場合に退職金の減額や不支給が許されるか、使用者が労働者の退職前に一方的に退職金の金額を減額することが認められるかなど、様々な法的問題があります。
    これらの問題は個々のケースに即して具体的に検討することが必要となります。当事務所の弁護士は、数多くの労働事件を解決してきた実績と専門的知見を有しておりますので、安心してご相談ください。