「おひとりさま」の終活
近年、核家族化と少子化が進み、一人住まいの高齢者が増えています。
「おひとりさまの老後」などの著作者の上野千鶴子さんが、最近、「在宅ひとり死のススメ」という本を出され、多くの人たちに読まれています。
上野さんは、一人暮らしはかわいそうでも悲惨でもないとし、施設や病院ではなく、住み慣れた自宅で、自分らしく幸せな最期を迎えるための、訪問医療、看護、介護などの制度を紹介しながら、心構えを述べておられます。
老後や終末期を、いかにすれば幸せに満足して過ごせるかは、高齢者にとって重大な関心事です。
自分自身の財産管理ができなくなってから、死亡後の遺産の処理に至るまでの法律上の手続きを、私が依頼を受けた事例にそって、お話したいと思います。
一人暮らしの高齢の女性Aさんから、3年前に遺言書を作りたいとの依頼を受けました。身近に親族の方がおられず、遠方に遠い親族の方はおられるもののかなり疎遠とのことでした。私は、遺産となる預金や不動産などについて、ご持参いただいた書類を確認し、どのようにしたいかをお聞きして、遺言書の案文を作成し、公証人に公正証書の作成をお願いしました。遺言執行者はAさんの依頼により私がなることとしました。
Aさんは長年、介護サービスを受けて病気の治療を続けておられたのですが、遺言書作成から1年後、病状が悪化しました。Aさんは、入院はしたくない、自宅で最期を迎えたいとの強い希望を持たれ、ケアマネージャーに相談し、介護保険の適用による介護を受けながら、自宅で終末期を迎えられることとなりました。そのためには、自分が動けなくなったとき、判断能力がなくなったとき、死亡後の措置などのために、法律上の手続きが必要となります。
私は、Aさんとの間で、①預金の払い戻しや費用の支払いができなくなった時のために「財産管理契約」を、②判断能力が不十分になったときに法的に援助するための「任意後見契約」を、③死亡後の諸届や葬儀、納骨、生前に要した費用の支払いなど死亡後に発生する様々な手続きについて予め弁護士に委任しておく「死後事務委任契約」を、それぞれ締結し公正証書としました。
Aさんは、ケアマネージャーの立案した介護計画の下で、医師、看護師、ヘルパー、訪問入浴などの介護サービスを受け、病状がかなり悪化してからは、
家政婦の夜間介護も受けて、終末期を過ごされました。
Aさんの自宅は、マンションの7階で、日当たりがよく、窓からは季節になると桜の花見もできる眺望の良い部屋でした。介護サービスに出入りする方々の温かい励ましを受けながら、Aさんは終末期の2か月を過ごされました。
私は、Aさんとの契約で取り決めた内容に従って必要な手続きをし、また、遺産については、遺言執行者として、Aさんの遺言に基づいて手続きを行いました。
弁護士 児嶋初子