「原爆 捨てられない記憶と記録」 弁護士児嶋 初子
大学の同期生で、長年広島で弁護士をしておられる佐々木猛也氏が、日本評論社から、「原爆 捨てられない記憶と記録」を出版された。知ってからすぐに
本を購入したが、本が621頁にも及ぶ大作で、まとまった時間が取れる時に集中して読もうと思っていたので、読了までに時間を要してしまった。
著者は、原爆投下時、爆心地から31.5キロ離れたところで暮らしておられたが、閃光、大音響、そしてきのこ雲を見たとのことで、異様な情景は忘れることがないと述べておられる。
著者は、原爆症認定訴訟に関わり、原爆症認定集団訴訟・ノーモア・ヒバクシャ広島弁護団の団長を務められた。本書には、原告の陳述書として、被爆者の病歴、仕事や家庭生活への支障、本人の心情を物語る書面が多く掲載されており、被爆のために次々と病気を患い、人生に大きなダメージを受けながら必死に生きてこられた人達の苦悩がひしひしと伝わってくる。これらの訴訟において、国の冷たい対応に対して、被爆者たちが共に闘い、多くの人たちが勝利を収めた。
被爆者を苦しめ続ける原爆症の実情に加えて、壊滅的被害を受けた広島の惨状、原爆はなぜつくられたのか、なぜ広島と長崎に投下されたのか、日本の戦争責任、戦後の軍拡競争や被爆者たちのたたかいなど原爆に関する全体像が分かるように記述がなされている。
また、著者は法律家の立場から核兵器廃絶運動に取り組み、核兵器廃絶を目指す日本法律家協会会長、核兵器廃絶を目指す国際法律家協会共同代表を務め、その活動についても述べておられる。
2021年1月、核兵器禁止条約が発効した。現在署名国は93か国、批准国は69か国である。日本政府は、この条約の署名・批准はせず、また、締約国会議へのオブザーバー参加もしていない。昨年のG7サミットで出された「広島ビジョン」は核抑止力による安全保障政策を肯定・評価するものであった。
核兵器の使用から生じる壊滅的・非人道的結末については、既に広島、長崎で実証されている。このような被害を生じさせる核兵器は、違法なものとして
保存・使用などを禁止し、直ちに廃絶する必要がある。今年4月、核兵器禁止条約に加わるよう政府に求めるため、「核兵器をなくす日本キャンペーン」という団体が発足した。被爆80年となる来年には国際会議を開催する、政府に対し、遅くとも30年までに核兵器禁止条約に署名・批准するよう働きかけていくとのことである。
本書を読んで、このような核兵器による壊滅的・非人道的被害は今後絶対に起こしてはならない、核兵器は即時廃絶すべきことが一層強く認識させられた。