お客様の涙      弁護士 畑谷嘉宏

最近御相談を頂いて涙を流された方がお二人いらっしゃいました。

お1人は、妻が自転車に衝突され大腿骨骨折の重傷を負った方と、もうお1人は離婚の手続きが進まなくなってどうしたらいいか立ち往生されている方でした。

お1人目の方は、すでに何人かの弁護士に相談されたようでしたが、受任してもらえなかったということで弁護士会に相談に来られたのです。自転車事故の被害者であるということと加害者が老齢の女性であるということで受任してもらえなかったのではないかと推測されましたが、賠償金がとれるかどうかの見通しだけで受任の有無を決めるのは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を目的とする(弁護士法1条)弁護士としては、弁護士に対する市民の信頼を自ら掘り崩すものだと思いました。

加害者の責任が明確で、被害が重大な本件自転車事故の被害者救済のために受任するべきだと考え受任の意向をお伝えしたところ、涙を流して喜ばれたのでした。受任後調査したところ加害者が無資力でないことも確認でき被害者が救済される見通しもでてきたのです。

自転車による事故については、自動車事故と違って自賠責保険が適用されませんし、自転車事故賠償保険に加入していなければ、保険からの損害の補填がないので、加害者の資力に左右される危険性が高いのは事実ですが、それだけで被害者からの依頼を受けないというのは間違いだと思います。相談者の涙を見て改めて、被害を受けた人のすがるような思いを受け止めることの大切さを感じました。

もうお1人は、離婚の合意ができていたのに、妻の事故で手続きが止まってしまい、その後妻の弁護士から離婚手続きを待ってほしい、財産の処分もしないでほしいと言われたままで年月が経ち、財産管理の費用が嵩み、別居生活と仕事の基盤がしっかりしておらず借金生活にたえられなくなっていて途方にくれているとの御相談でした。相談者の妻の住所は遠く離れているので、離婚調停の手続きをとるのが困難な事例でした。別居状態にあるからといって必ず調停手続きをとらなくても良いこと、妻の方からも申立ができること、その場合は相談者の住所地の家庭裁判所になること、婚姻前の特有財産である不動産はローンや固定資産税の負担をくすために売却することは何ら問題がないこと、住所変更届をしても何ら問題がないこと、住所変更すれば預けてある実印の印鑑登録は無効にすることが出来ることなどお話をしたら、いろいろな心配事が一挙に解決して、本当に気持ちが楽になられたのだと思います。涙を流してお礼を言われました。心配事や不安なことに1つ1つ答えることによって解決することができる事例があることを学んだ事例でした。