『おしどり探偵』弁護士 岩坂康佑
推理小説家、アガサ・クリスティ。その名前を聞かれたことのある方は、少なくないと思います。
クリスティは「ミステリーの女王」と呼ばれ、世界中でその作品が愛読される英国の大作家です。
クリスティが生み出した探偵としては、エルキュール・ポアロやミス・マープルが知られています。
しかし、クリスティが世に送り出した探偵は、彼らだけではありません。
トミーとタペンスという夫婦をご存知でしょうか。 夫はトーマス・ベレズフォード(愛称はトミー)といい、元英国陸軍の軍人です。人の好い青年で、基本的に慎重に物事を考えて行動するタイプです。
妻はプルーデンス・ベレズフォード(愛称はタペンス)で、第一次世界大戦中から看護師として働いていました。好奇心が旺盛で、いろいろなことに首を突っ込んでしまいます。
このベレズフォード夫妻は、ポアロのように探偵を生業とはしていません。 それでも度々事件に巻き込まれ、あちこちを奔走することになります。探偵としては素人なせいか、危険を顧みずに無茶をして、読者をヒヤヒヤさせることもしばしばです。 ですが、持ち前の行動力と機転の利く対応力で、最後には見事に事件を解決していきます。
ベレズフォード夫妻が挑む事件は、国際政治や戦争の関係するものが多く、彼らの登場する作品は推理小説というよりもスパイものやサスペンスものとしての側面が強めです。 もっとも、二人は夫婦らしいユーモラスなやり取りを見せることも多く、彼らの登場作品に重苦しい雰囲気はありません。 ベレズフォード夫妻の物語としては、長編が4作品、短編集が1作品発表されており、いずれも邦訳されています。 それらの作品には時系列が存在し、時系列に沿って読んでいけばベレズフォード夫妻のなれ初めから老後までをたどることができます。
彼らの登場作品を時系列の順番で並べると、以下のようになります。
①『秘密機関』(The Secret Adversary)(長編)
②『おしどり探偵』(Partners in Crime)(短編集)
③『NかMか』(N or M?)(長編)
④『親指のうずき(英語版)』(By the Pricking of my Thumbs)(長編)
⑤『運命の裏木戸(英語版)』(Postern of Fate)(長編)
いずれの作品も、ハヤカワ・クリスティー文庫で読むことが可能です。
①の『秘密機関』は、近年新訳が発売されています。
トミーとタペンスの物語は、ドラマでも楽しむことができます。
2015年に英国のBBCがドラマを放送し(Partners in Crime)、日本でも昨年の10月から12月にかけてNHKで吹き替え版が放送されました。
夫婦の素人探偵という、探偵界では異色の存在であるトミーとタペンス。
彼らにしかない魅力が満載です。ぜひご一読ください。
岩坂