『夏の思い出』 弁護士 畑谷嘉宏

「夏が来れば思い出す 遙かな尾瀬 遠い空」という有名な歌がありますが、私の場合は白馬(しろうま)岳です。

私は神戸市の六甲山の麓で育ったので、小さい頃から六甲山に登り山に親しんできました。六甲山は標高932mでそれほど高い山ではありませんが、夏の山頂近くは、夜にはセーターがいるぐらい涼しいので、夏は良く山に登っていました。

大学生の時は、川崎セツルメントというサークルに入っていて、夏は那須の三斗小屋温泉で合宿をしていました。三斗小屋温泉は、バスの終点から2時間歩いて山を上り下りをしなければ行けない所です。7月の中頃に行くのですが、シャクナゲのピンク色の花が美しく印象的でした。三斗小屋温泉は湯量豊富で温泉もすばらしいのですが、何と言っても涼しいのが何よりでした。

弁護士になってからは、花の山として有名な加賀の白山に登りました。泊まった室堂小屋の自然観察員の案内で、花めぐりをして花の名前や特徴を教えていただき、高山植物への興味が開かれました。そこで、高山植物なら白馬岳が種類も多く、規模も大きいということを教えてもらい、翌年から白馬岳に登るようになりました。白馬岳は北の登り口には蓮華温泉という野趣あふれる温泉があり、南の登り口には白馬鑓(やり)温泉という豊富な湯量の温泉があって、山から下りた後の入浴宿泊が楽しみな山でもありました。北アルプスの北端に位置する白馬岳は雪の多い山で、有名な大雪渓は、長さ2kmもあり、その上を、白、黄、ピンク、紫と色も多様で、花の種類も多く、登りのつらさを癒してくれました。梅雨明け10日と言われる7月20日ごろから8月10日ごろまでが天候に恵まれるので、毎年、その頃に行くのですが、雪の多い年、少ない年、暑い年、それほど暑くない年と、年によって、咲く花が違うので、今度はどんな花が見られるのかな、という楽しみもあります。

花を見ながらの急登を登り切って、尾根・山頂に出ると、360度の視界が開け、白山、立山、剣、鑓、穂高、八ヶ岳、富士山と名だたる名峰を一望の下に見渡せる爽快さは何にも代え難いものがあります。温泉、花、雪渓、青空360度の眺望、そして涼しさを兼ね備えた白馬岳は、私の大切な夏の思い出です。

【弁護士 畑谷嘉宏】