少年事件について思うこと

私が担当させていいただく事件の中に、少年事件があります。少年事件とは、未成年者が法に違反する罪を犯した事件や、未成年者に不良行為があって将来罪を犯す可能性がある事件のことです。男性でも女性でも、未成年者であれば法律上は「少年」と呼ばれます。

私は、大学生のときに、少年や教育に関する講義を受講しました。その講義を担当された先生は、「罪を犯したり不良行為に及んだりしてしまう少年は、親子の関係がうまくいっていないことが多い」と何度もおっしゃっていました。また、その講義の中で、少年院見学に行き、職員の方からお話をうかがう機会がありましたが、職員の方は、「ここに入っている未成年者の多くが親から愛されていない」というお話をされていました。

少年事件を担当させていただいていると、どうしてこの少年はこうなってしまったのか、ということを深く考える場面に必ず直面します。その少年がどんな環境で育ってきたか、その少年の個性はどんなものであるか、少年は何を求めているのかといったことなどを考えていきますが、そうしていくうちに、大学生のときにうかがったお話がいかに正鵠を射たものであったかを感じます。

私には児童心理学等の専門性はありませんので、あくまで私の感覚的な印象ではありますが、人には、親に自分というものを受け止めてもらいたい、大切にされたい、という欲求があるように思います。そして、その欲求が満たされないとき、孤独を感じ、同じように孤独を感じる仲間と集まるようになったり、他者を思いやれない行動に出てしまったりするように思います。私が担当した少年事件の少年の多くが、どうして今の自分が形成されたかを振り返ったときに、私にそのようなことを話してくれます。また、しっかりと立ち直ることができた少年を見ていますと、その背後にはわが子へのそれまでの向き合い方を反省し、改善しようと懸命になる親の存在があります。

このようなことを考えていますと、少年事件は、「あなたは悪いことをした。反省しなさい。」といって少年を責めればそれで良いというような問題ではないと思えてきます。もちろん、少年に自身のしたことの結果や影響をよく理解し、反省してもらうことは重要です。しかし、それとともに、周りの大人も、少年が事件を起こすに至った事情をよく理解し、少年が立ち直ることができるように少年を支えていく必要があると思います。

子は、いかに家族であるとはいえ、親とは別の人格をもつ人間です。それに、どの家庭にも様々な事情があります。ですから、親が子に対しどう向き合っていけばいいのかということは、容易に正解を求め得ない非常に難しい問題です。しかし、親が、できる限り、その子をその子として尊重するという意識や姿勢を持つことができるといいのではないか。少年事件を担当させていただいていると、そのように感じます。

弁護士 岩坂 康佑