刑事事件に関する、弁護人と被害者代理人、双方の役割 弁護士 林裕介

第1 はじめに

私は、刑事事件の弁護人(逮捕されてしまった方や刑事裁判の被告人になってしまった方の弁護人)として事件をお引き受けすることが多数あります。

他方、犯罪事件の被害者になってしまった方の支援(犯罪被害者支援)に関する事件をお引き受けすることも多数あります。

このように、私は、被疑者・被告人になった方の「刑事弁護人」という立場と、被害者になってしまった方の「被害者代理人」という立場の両方から、刑事事件に携わることがあります。最近、私がお引き受けした被告人の方の裁判員裁判(*)と、これとは別にお引き受けした被害者支援に関する裁判から、改めて、刑事裁判について考えたことをお伝えしたいと思います。

 

*裁判員裁判:人を死傷させるなどといった重大な事件は、市民から選ばれる裁判員が審理に加わり、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合はどのような刑にするかを決める制度です

 

第2 刑事弁護人

1 刑事事件における被疑者・被告人は、とりわけ、逮捕などによって身柄拘束をされてしまっている場合に外部との通信が大きく制限されることで孤立しがちであり、また、検察という国家から訴追され、相対的に弱い立場に置かれます。

こうした状況下で、弁護人は、被疑者・被告人にとって唯一(と言ってよい場合が多数あります。)の支援者となります。そうすることで、たとえば仮に、被疑者・被告人が当該犯罪行為を行ったこと自体には誤りがない事案においても、必要以上に重い刑罰が科されることは刑法の基本原則に反するため、弁護人としては、被告人に科される刑罰が適切なものとなるようサポートすることとなります。

2 これに関し、先日私が担当した裁判員裁判事件では、被告人において犯罪行為を行ったこと自体には争いのない事案でしたが、本人がそうした行為に及んでしまった原因に、本人の発達障害が大きく影響していました。また、被告人本人は、事件前から非常に孤立しており、こうした発達障害について治療やその他社会的なサポートを受けられる機会がほとんどありませんでした。そして何より、被告人本人は、自身の犯してしまった犯罪行為について深く反省するとともに、そうした犯罪行為の原因となった発達障害に関し社会的な福祉支援を受けて立ち直ることを切望していました。

こうした、被告人が本件犯罪行為に至ってしまった原因や経緯を踏まえ、私(弁護人)の方にて、更生に向けた支援をしてくださる社会福祉士を探したうえで、その社会福祉士の方とともに、行政による障害者認定、居住場所としてのグループホームの選定、治療を受ける病院の選定、及び、自立するための就労支援先の確保といったことを行った上で、更生支援計画を立て、これを裁判員(官)に提示しました。そうすることで、被告人本人に必要であるのは、刑罰でなく、治療・支援であることを強くうったえました。

その結果、裁判所の判決では、被告人本人の行った行為が許されるものでは当然ないものの、発達障害が本件に与えた影響を考慮したうえで、前記更生支援計画に沿って更生していくことの意義を重視し、執行猶予(刑務所でなく社会内で更生する)を付す判断がなされました。

3 このように、刑事弁護人において、被告人が犯罪行為に至ってしまった原因を探ったうえで、さらにその原因を取り除くことは、被告人が二度と同様の過ちを犯さないこととするために非常に重要です。こうした更正に向けた観点をふまえたうえで、被告人には適切な刑罰が科されるべきといえます。

 

第3 犯罪被害者支援

1 他方、弁護士は、犯罪被害者支援の立場から、被害者の代理人となり、被疑者・被告人に対し様々なアプローチを行うということもあります。つまり、先程の刑事弁護人の立場とは真逆の立場から、刑事事件に携わることとなります。

例えば、被害者は、犯罪被害にあってしまったことで精神的なダメージを負い、日常生活にも支障が生じてしまうことが少なくなりません。このため、被害者代理人の立場から弁護士は、被疑者・被告人に対し、賠償を求めることのみならず、今後被害者と接触することのないよう、例えば、通勤経路上の犯罪であれば、通勤経路の変更を誓約してもらうといった交渉を行うこともよくあります。

2 また、弁護士は、被害者代理人として、被告人の裁判に関わっていくという役割を担うこともあります。このように被害者が刑事裁判に関わっていく制度を「被害者参加」制度といい、被害者側が公判廷において、被告人に対する刑罰に関し意見を述べること等ができます。

過日、私は、交通事故の被害者のご遺族の方の被害者代理人となって被害者参加を行い、刑事裁判に出席しました。その公判廷にて私は、ご遺族の方が、ご家族を失った悲痛な思いを語り処罰に関する意見を述べることのサポートを行いました。また、私自身、被害者代理人として、公判廷にて被告人に直接質問し、事故態様やその後の対応の悪質性などを追求するといったことを行いました。

3 このように、被害者支援によって弁護士は、被害者の方が被った様々な被害から立ち直ることのサポートを行う役割を担います。また、被害者参加制度を通じて刑事裁判にて、被害者が主体的に関わることができるよう力添えをするという役割も担います。そうすることで、刑事事件の被害者にとって公正な結果となるよう尽力します。

 

第4 最後に

ここまで述べてきましたように、私は、刑事弁護人と、犯罪被害者支援の両面から、刑事事件に携わりますが、公正・適切な結果を目指すという点では、いずれの立場においても共通しているように感じています。

いずれの立場であっても、刑事事件に関わることになってしまった方がおられましたら、ぜひご相談にいらしていただければと思います。