『孤独死に思う』弁護士 畑谷嘉宏

  夏から秋にかけて立て続けに4件孤独死の事件が寄せられました。いずれも遺体の引き取りや汚染された室内の現状回復・損害賠償にからむ問題でした。

  遺体の引き取りについては、相続財産ではなく、祭祀の対象ですから引き取ったから相続を承認(単純承認)したということになりませんが、葬儀や埋葬の問題が生じてきます。親族だからということで必ず引き取らなければならないわけではありません。引き取り手のない遺体は現実には住民の福祉を担当する自治体が火葬して無縁仏として合祀しているようです。

  問題は、原状回復費用・損害賠償債務などの相続の問題です。マンションなどコンクリート壁の部屋では、壁に死臭がしみ込むので壁を斫って作り直さなければなりません。昔相談に乗った件では1000万円の請求をされたというのがありましたから、慎重に考えなければなりません。大抵の場合相続放棄をすれば相続人とならなかったことになり、債務の相続を免れることができます。

  相続放棄は、民法915条1項により、自己のために相続の開始があった時から3か月以内に被相続人の死亡地の家庭裁判所に申述して行います。
「自己のために相続の開始があった時」というのは、相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを覚知したる時を指します。

  相続関係の原因たる事実の発生とは被相続人の死亡です。音信不通の場合は、警察や市役所等から問い合わせや連絡があった時が、被相続人の死亡を知った日になります。同時に要求される「そのために自己が相続人となったことを覚知したる時」とは、被相続人に子どもがいた場合には、子供が相続放棄したことを知った日、父母がいた場合には父母が相続放棄をした日、ということになります。

  ある日突然被相続人の借金について相続人だからと言って請求書が来たり、裁判所から訴状が来たりすることがありますが、被相続人と交流がなく被相続人に借金があることを知らなかった場合には、借金の請求をされた時、借金の訴状を受け取った時か自己が相続人となったことを覚知したる時ということになります。

  孤独死をした被相続人に財産がないか、あまり多くない場合を想定して書きましたが、相続財産がかなり多くある場合などいろいろな場合がありますので、弁護士にご相談いただきたいと思います。

弁護士 畑谷嘉宏